村尾政樹の個人ブログ

ソーシャルセクターに勤める29歳の個人ブログ。仕事や活動の記録がメインです。

自殺という課題と人々との間にできた溝を埋め合わせた、一つのひとつの物語。

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 前回の記事『大切な人との写真を通じた、自殺対策。予想外の企画に込められた若者たちの想いとは。』では、私たちが活動を始めた原点やきっかけについて書きました。

 この「大切な人との写真パネル展」。最終的に全国から1500枚以上の写真が集まりましたが、はじめから写真が順調に集まっていった訳ではありません。『それって、自殺したい人や自殺で亡くなった人の遺族が提供するやつでしょ。』『趣旨には賛同できるけど、自分の写真をパネルで飾られるのはちょっと…。』そのような声もありました。私たちが掲げた『自殺対策は生きていく支援で、生きていくことは誰もが当事者』という想いに立ちはだかった課題は、自殺という課題と人々との間にできた想像以上の『溝(ギャップ)』でした。『本当に写真が集まるのかな…』と不安になったときもありました。

 2011年2月。札幌では雪まつりが開催されていました。協力していただいていた団体の人が機会をつくってくださり、私たちは雪まつりの会場で写真の協力をお願いする活動をはじめました。雪まつりを訪れた人々に失礼を承知ながら、一人ひとり声をかけてまわりました。

 『私は母親を小学校6年生の時に亡くしていて、亡くなる直前に写真を撮ることを断ってしまった。そのことをすごく後悔しているんです。だから、皆さんに大切な人と写真を撮っていただき、少しでも良い思い出や人とのつながりを考えるきっかけにしてもらえたらと思っています。』

 企画について丁寧に説明しながら想いを伝えると、雪が降る寒い中でも耳を傾けて協力してくださる人もいることに気付けました。『なかなか、こうやって夫婦二人で写真を撮る機会も減ってしまったから、良い機会になりました。』『話を聴いて、自殺だけじゃなくて今後いつ・どのような形で人を亡くすか分からないと思った。"当たり前"を、たまには大切に想う時があっても良い。』報道機関の人にも広く報道していただいたことも写真が集まった一つの大きな要因だったと思っています。しかし、一番大切だったのは一人ひとりにしっかりと企画や想いを説明し、対話をしていくことでした。その対話が説明する側・想いを伝える側にとっても人々が自殺についてどのように受け止めているのかを知り、なぜ『溝(ギャップ)』が生まれているのかを考える貴重な機会となり、そこから『溝(ギャップ)』を少しずつ埋めていくことにつながりました。

 その『溝(ギャップ)』が埋まっていく過程のなかで印象的だった物語を2つ紹介します。

 まず一つ目は、JR札幌駅構内で撮影会を行ったときのことでした。『こんにちは』突然声をかけられて振り返ると、そこに親子が立っていました。『突然で申し訳ないんですけど、活動している様子を知って少しでも話を聴いてほしくて声をかけました。』少し場所を変えて話を聴いてみると、その親子は最近に家族を自殺で亡くしたとのことでした。『まさか自分の家族がこうなるなんて思ってもいなかった。どん底に落とされるような気持ちになりかけていましたが、あなたたちの活動を知って、そうじゃないんだ、私たちだけじゃないんだって気持ちが楽になったんです。どうしても、その御礼を直接言いたいと思って。』札幌駅という多くの人が行き来する場所で、ふと出会った一つの物語でした。

 二つ目は、パネル展の最中です。パネル展を始めて数日が経過したとき、ふらっとパネル展を観にきた様子で一通りパネルを観終えて、その人は私に声をかけてくださいました。『実は、私の娘も自殺で昨年亡くなっているんです。亡くなっても娘は私にとって大切な人。娘との写真を皆さんの大切な人たちと一緒に「あなたも大切な人だよ」って想いで飾ってもらえませんか?』娘と同じ世代の私たちを観てパネル展に参加したい、娘も参加させたいと思った一つの物語でした。

 写真に込められた一枚一枚の物語に加えて、このように写真を応募する・パネル展を観にきた人が抱く想いも一人ひとりの大切な物語とリンクして活動の輪が広がり写真は一つひとつ集まっていきました。もちろん、身近に自殺や大切な人を亡くした経験を持つ人だけではありません。自殺という課題やその対策を反射的に『自分とは関係ない。』と思ってしまう『溝(ギャップ)』が、自身の物語と照らし合わせてみると実は生きていても亡くなっていても『大切な人』だという点で同じ、その想いでつながっていた。そして、その『溝(ギャップ)』は最初からそこにあるのではなく、私たち自身がお互いに『あなたとは違う』と決めつけてつくりだしてしまっているものだった。そのようにして、大切な人との写真は幅広い人たちから集まってきました。

    自殺という課題やその対策と人々との間にあった『溝(ギャップ)』は一枚一枚の写真に詰まった物語や一人ひとりの物語で埋め合わさり、お互いの物語が一つの物語へと紡がれていきます。そういった意味で、私たちの想いから始まった企画は私たちではなく1548枚もの写真・参加者が最終的につくりあげていったんだと今、振り返っても思います。改めて、当時ご協力いただいた皆様に御礼申し上げます。誠にありがとうございました。